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令和4年度奈良女子大学卒業式 学長式辞

今岡学長式辞


 文学部155名、理学部164名、生活環境学部209名、合計528名の学部卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。今年が最後になると思いますが、新型コロナウイルスの影響で、卒業式を学部別の形で行うことにしました。
 私たち奈良女子大学の教職員一同は、本日のご卒業をお喜びの保護者の方々に、心よりお祝いを申し上げます。
 ご卒業は、皆様の人生において幾つかある節目の一つです。節目に当たって二つのお願いがあります。
 まず、ご家族あるいは皆さんを支えてくださった方に「ありがとうございました、おかげで無事卒業することができました。」と感謝の言葉を伝えてください。この言葉は、経済的支援だけでなく、皆さんが無事でいて欲しいとの祈りの気持ちに対しての返礼になります。是非口に出して伝えてください。12年前の東日本大震災を思い起こすまでもなく、今日の新型コロナウイルス禍を見れば、無事であること、「つつがなし」は実は大変な事なのです。
 節目に当たってもう一つのお願いですが、自己分析を行ってください。4年間、編入学の皆さんは2年間ですが、成長しましたか。知識のことと、自立する力に分けて分析してください。知識は高校レベルと今と比較してどれだけ違うかで判定できるでしょう。自立する力は、判定が難しいものです。私は皆さんが入学したときに、映画を見るか本を読むかして、感想を書いておくことをお願いしました。もう一度同じ映画あるいは本の感想を書き、比較してください。皆さんの大学生活での成長を感じることができるでしょう。
 皆さんの学年は、新型コロナウイルスへの影響で不自由で不安な3年間を過ごされました。現実は現実ですが、少し俯瞰して考えたことをお伝えしてお祝いの言葉にしたいと思います。
 キーワードの一つは「移動」です。人間は動物ですから移動します。自然な移動は足で行いますので、あまり遠くまでいけません。近代文明は、電車、車、飛行機を発明し、多くの人がこれらの交通機関を利用するようになりました。この移動をベースに、モノづくり企業は工場を持ち、そこに働く人が集まる労働形態を作りました。教育では、凤凰体育を作りそこに学生が通う学習形態を作りました。
 二つ目のキーワードは「都市」です。人が集まる場所を都市といいますが、都市では様々なイベントで密集が起こります。「移動」と「都市」というこの社会の基本部分が、新型コロナウイルスで弱点を示したのです。基本が揺らぐのですから、私は世界が大きく変わると予想します。皆さんは2回生から4回生の間に新型コロナを経験されました。将来、ああ、あそこで世界が変わったんだという感想を持たれると思います。卒業という節目に、新型コロナをトピックに私たちの社会の作りについて考えてみてください。
 世界が変わるという具体的な兆候が出ています。ロシアによるウクライナ侵攻です。ウクライナの首都キーウ市は奈良や京都より古い1500年の歴史があり、京都市とは姉妹都市です。その都市で銃弾が飛び交っています。
 話は変わりますが、せっかく奈良とご縁があったのですから、是非学生時代の良き思い出を、生涯の宝物としてお持ちください。奈良の特徴は長い伝統です。修二会は1272回、一度も中断することなく継続しています。新型コロナの影響下でもびくともしませんでした。奈良での経験から、皆さんは10年、100年、1000年というマルチスパンで物事を考える力を得たと思います。コロナ禍やウクライナなど厳しい話題を考えるとき、この話は100年ものかな?10年ものかな?と考えると、少し俯瞰的に考えることが出来ます。
 最後になりますが、皆さんの輝かしい未来を祈念してお祝いの言葉といたします。


令和5年3月23日 
奈良女子大学長 今岡春樹