活躍する卒業生を迎えて
  今岡春樹学長(以下 今岡):本日は本学の卒業生である伊東ひとみさんをお迎えしました。ご活躍の内容や奈良女子大学の魅力について語り合いたいと思います。どうぞよろしくお願いします。


伊東ひとみ氏(以下 伊東):こちらこそよろしくお願いします。

今岡:今年(2015年)5月に刊行されたご著書、『キラキラネームの大研究』 (新潮新書)が話題になっています。何軒か書店をまわってもどこも売り切れ、というような話も聞きました。
メディアでもかなり取り上げられていますね。日本経済新聞・週刊朝日・週刊文春・週刊現代・文藝春秋など各紙誌の書評欄や、朝日新聞の「天声人語」などで紹介されたと伺っています。さらに、テレビではBS日テレの「久米書店」 でも拝見しましたし、NHKの番組「視点・論点」 でも伊東さんご自身がこの本に関連して「命名と漢字文化」のテーマで解説なさったそうですね。

伊東:はい。おかげさまで、あちこちでご紹介いただいています。

今岡:どこが注目されているのでしょう。

 
  伊東:「キラキラネーム」というのは、これまでの常識とは異なる漢字の読み方をしたり、これまでの日本語の名前にはなかった音の響きをもっていたりする、難読の名前のことです。
インターネット上や雑誌などでは、苺苺苺(まりなる)ちゃん・紗冬(しゅがあ)ちゃん・愛夜姫(あげは)ちゃんといった名付けを否定的に取り上げるものがほとんどですが、私の場合は、そういう命名の表層だけを見て批判的に論評するのではないところが特徴かな、と思います。日本語における漢字使用の歴史を古代からたどりなおして、今、命名の現場で何が起きているのかを解明しようとしたものですので、そのあたりに興味を持ってくださる方が多いのかもしれません。
 
奈良女子大学〜変化したこと/変わらないもの〜
  今岡:私も拝読し、びっくりすることがたくさんありました。ご本の内容は、この対談の最後のほうでまた詳しくご紹介することとして、まずは、伊東さんご自身のことをお聞かせいただきながら、本学の特徴や魅力について話し合って行きたいと思います。
意外なことに伊東さんは、本学理学部のご出身なんですね。

  伊東:はい、そうです。1970年代後半、当時の理学部生物学科植物学専攻に在籍し卒業しました。

  今岡:ご出身は静岡県とのことですが、なぜ、奈良女子大学の理学部を志望されたのですか。
 
  伊東:高校生のころ、日本の古典にも、生物の世界にも両方に関心がありまして。それで、今考えると不遜なのですが、専攻は生物学にしておけば、古典のほうはなんとか独学でできるのではと考えました。古典を学ぶなら奈良、女子大でかつ理学部がある、ということで、迷わず奈良女子大学を志望校としたわけです。中学・高校と女子校にいましたから、女子大ということに抵抗はなかったですね。

今岡 :たしかに、女子大で理学部があるというのは結構珍しいのです。せっかくの機会ですから、この対談を読んでくださる方のために、奈良女子大学の紹介を簡単にしておきましょう。

伊東:はい。私もお伺いしたく思います。

今岡 :
本学は全国に二つしかない国立の女子大で、もうひとつは、お茶の水女子大学です。前身は、奈良女子高等師範学校。創立は1908(明治41)年で、それ以来、年配の方には、「ジョコーシ」というだけで通じる伝統ある名門です。中にいる者が、自ら「名門」と言うのもヘンですが……。

伊東:
いえいえ、先輩方が築き上げられた輝かしい歴史があるのは事実ですから。

  今岡:戦後、1949年に奈良女子大学として発足した当初は、文学部と理家政学部の2学部だったのです。理家政学部がふたつに分かれたのは5年目の1953年でした。それ以来、3つの学部からなるという構造はしっかり受け継がれています。ただし、家政学部は1993年に生活環境学部という名前に変わっています。「家政」という言葉がちょっと古くなったからです。日本家政学会という学会はまだありますけど、アメリカは完全にホームエコノミクスという学会名称を変えてしまって、衣食住の研究をほとんどやっていません。家族の問題と消費の問題 、この2つしかやっていないからアメリカの場合は完全に文系の学会(American Association of Family and Consumer Sciences )です。
私が教えていたのは、コンピュータを利用した衣服系ですけれど、残念ながら日本の大学でも、ちゃんと衣食住を教えられるところが国公立も含めてなくなって、私立もだんだん少なくなっています。一方、本学では、学部名が変わって、生活文化論や家族論も取り入れつつ、衣食住に関わる現代的な諸課題の教育と研究についてきちっとやり続けている点が、国立女子大としての強みであり特長でもあります。

  伊東:なるほど。わたしは在学中、当時の家政学部を外から見ていただけですが、そのように説明していただくと、よくわかります。

  今岡:もちろん時代の要求によってずいぶん変わってきています。文学部も、たとえば社会学は当初はそんなに大きなブランチではなかったわけですが、この時代の問題を理論的に定式化して、そこから情報を得て、あとは統計的に処理をしたり、インタビューをしたりという応用にまでもっていくところがあり、今では大きくなりました。それから心理系や教育系も学生さんの人気があると思います。もちろん、伊東さんが関心を持っておられる古典・ことば・歴史をはじめ地理・思想などの研究や教育は、文学部の核ともいえる部分ですから、当然、熱心に取り組まれています。

  伊東:文学部の学科名やコース名などは、私の在学時からはかなり変わったように見えますが、人文の知を究め、それを学生に伝えるというスタンスは変わっていないのですね。

  今岡:組織上は理学部がいちばん変わっていないとも言えますが、去年、2つの大きな括りにして学部のなかを2学科にしました。数物科学科と化学生命環境学科です。特に前者は、自分は物理が好きなのか、数学が好きなのかわからないというのを一緒に入学してもらって、2年生か3年生のときに分属したらという考えです。
それでも、女子学生がだんだん理学部に行かなくなっているので、今はいわゆる「リケジョ」で盛り返そうとしているわけです。これは単なるスローガンではありません。本年度から「理系女性教育開発共同機構(CORE of STEM)」というものをお茶の水女子大と一緒につくりました。理系教育のあたらしい授業実践や教材開発をするだけでなく、そもそもなぜ中高生の女子が理系ではなく文系を目指す傾向が長年つづいているのかという理由を根本から解明し、歪みをただそうという大きな視野でやっています。来年度からは、生活工学をキーワードにした共同専攻(大学院生活工学共同専攻) を立ち上げ、大学院生の募集も新規に開始しています。
   
 
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