国立大学法人 奈良女子大学 工学部

私、工学 世界は変わる

令和4年(2022年)年4月 開設

Nara Women's University Faculty of Engineering

令和4年(2022年) 日本の女子大学史上初
工学部工学科誕生へ

工学は、社会で必要とされるモノやサービス、快適な環境を構築する学問です。
個人の主体性を活かした分野融合の学びから、社会が必要としている創造的エンジニアを育成します。

NEWSお知らせ

2022.05.01
奈良女子大学 工学部のホームページが開設されました。本サイトは開設記念サイトとして公開を続けますが、工学部の最新情報は工学部HPからご確認ください。 工学部ホームページ
2021.11.25
工学部の「新入生ガイダンス」を実施しますのでお知らせします。新入生の方は必ず参加してくださいt詳細はリンク先のPDFをご確認ください。 新入生ガイダンス(PDF)
2021.11.25
朝日新聞EduAに、工学部についてのインタビュー記事が掲載されました。下記リンクからご覧ください。 朝日新聞EduAの記事へ
2021.11.10
秋のオープンキャンパスの遠隔説明会(教育方針、入試説明、カリキュラム説明、質問回答)の収録動画をアップしました。下記リンクからご覧ください。 遠隔説明会の動画へ
2021.09.07
奈良女子大学通信Todayに、奈良女子大学の学生による工学部の教育についてのインタビュー記事が掲載されましたので、公開します。 学生によるインタビュー記事を読む
2021.09.01
工学部情報を更新した選抜要項と募集要項を公開しました。入試情報をご覧ください。 入試情報へ

PUBLICATIONリリース情報

CONCEPT学びと特徴

幅広い教養をもとに、個性に沿った自分だけの専門性をつくる

工学は、社会で必要とされるモノやサービス、快適な環境を構築する学問です。
個人の主体性を活かした分野融合の学びから、社会が必要としている創造的エンジニアを育成します。

設置の趣旨

視点 クリティカルシンキング
共感力・感性
工学
基礎
先端
技術
教養
分野
情報
分野

新分野の創造

豊かな社会を構築する工学系リーダーの育成

深い共感力 コミュニケーションから課題を発見

しなやかな想像力 学びや生活体験からのアイデア

高度な専門性と実行力 独自の視点からの新分野開拓

工学部の教育

主体性を育むカリキュラム

PBL 分野間の連携とチームでの協働を実践的に学びます。 リベラルアーツ 情報社会に必要な基礎知識と創造的な考え方を学びます。 専門教育 専門性と問題解決力を身につけます。

ワクワクを軸とした「知る、つくる」の循環でクリエイティブな学びを

PBL演習を軸に、「つくること、知ること」を循環的に体験し、実感のある学びから生まれるワクワク感。「感じること、問うこと」から生まれる創造性。「横断的、実践的」な学びを通じて、いろいろな人やモノ、知識や技術と出会い、形成されるコミュニケーション力。それらを身につけて未来をつくるイノベーターを目指します。

創造的、実践的、横断的。プレイフルな履修制度で自分だけの専門性を形成

履修する科目や年度は、学生が主体的に決めることができます。もちろん、アドバイザーの助言や、生体医工学、情報、人間環境、材料工学の専門性を身につける履修モデルもありますが、自由に科目を組み合わせて学ぶことで、50人の学生がいれば50通りのエンジニアが育つ仕組みにしています。

入学定員45名の少人数教育で個性を伸ばしあなただけの未来をつくる

1学年でみると教員1名あたり学生数約3名の少人数教育だから可能な対話的指導を行います。現代社会で重要な課題創造力、問題解決力、コミュニケーション能力、協働力など、専門知識や技術以外の能力を評価したポートフォリオをもとに、学生の意志を尊重して個々の主体性を伸ばすコーチング指導を実施します。

ポートフォリオに使う評価の図

企業や研究所とのコラボ講義で新鋭の技術や課題を学ぶ

多様な学びをサポートするために、地元企業の研究所で行う実製作演習や、最先端研究を行う奈良先端科学技術大学院大学・文化財工学がある奈良文化財研究所・美術・工芸・保存科学に強い奈良国立博物館・工学分野を広くそろえる奈良工業高等専門学校などと協力体制を築いて、多様でより専門的な講義や演習を実施します。

DMG森精機株式会社と連携した最先端のマシンを使用した演習
先端設計生産工学概論 先端設計生産工学実習 Ⅰ 先端設計生産工学実習 Ⅱ
奈良商品開発センター(JR奈良駅前)

養成する人材像

1主体性と理解力
豊かな社会を構築する工学系
ネットワークのコアとなる人
課題発見やニーズ創出を行う際に必要となる主体的な学習態度を身につけ、幅広い教養に基づいて多様な課題を理解して対応できる。
2専門性と問題解決力
独自の視点から課題を発見し、
工学的知見から解決できる人
サービスも含めた「モノづくり」において、自身の専門知識と技術を駆使して、問題解決に対応できる。
3社会性と波及力
新たな分野でリーダーとして
キャリアを形成できる人
社会への影響なども考慮しながらチームで協働し、異分野間でも効果的なコミュニケーションができる。

学べる分野のイメージ

生体医工学エリア(生体情報計測・福祉工学)

TMS(経頭蓋磁気刺激)を利用した下肢の運動測定

生体医工学は、医学と工学の領域を融合した学問分野です。生体の仕組みをモノづくりに応用するために、生理学・認知科学などヒトの機能に関する知識を学ぶとともに、工学の知識を医学へ応用するために計測技術とデータ解析に関する知識を学びます。生体機能と計測技術の基礎的知識、実際の機器操作スキル、解析方法、応用的利用方法の提案を系統的に習得することで、今後の少子高齢化社会・医療・福祉の発展に貢献できる技術能力、日常生活に必要とされる新たなモノづくりを創造できる能力を身につけます。

情報エリア(プログラミング・センシング)

モーションキャプチャーを使用した運動の測定

実世界における様々な対象を分析したり制御したりするためには、自らデータの収集を行うための機器を創り出すハードウェアの知識と、収集したデータの処理・分析を行う情報スキルが必要です。情報分野では、情報と人間を扱う際の様々な技術(プログラミング、データ解析、ヒューマンインターフェース等)や、モノ(電子デバイス)を扱う際の様々な技術(センサ、IoTデバイス等)、さらに生活支援などの応用技術について教育・研究を行います。4年間の教育・研究を通して、人に安全・安心で幸福な生活をもたらす新たなシステム開発を行える人材となることを目指します。

人間環境エリア(環境・建築・造形デザイン)

人工気候室を使用した体温の測定、睡眠実験

環境デザイン分野は、私たちの回りに広がる環境を、より豊かで、より快適なものに改善するデザイン手法を学ぶところです。住環境や社会環境のデザイナーである建築家や環境工学・情報工学のエンジニアから、それらをデザインする方法を学び、芸術と文化に関する学者と作家から、人と環境の関係について考え表現する方法を学びます。その基盤の上に、化学物質や素材、ICT技術なども学ぶことで、現代社会の課題を解決する教養を備えたデザイナーとエンジニアを育成します。環境デザインに関わるためには、知識も技術も限りなく必要なので、卒業後もそれぞれの興味にしたがって専門的な知識と技術を習得し続け、それぞれの分野でイノベーショナルな仕事をするエンジニアになることを目標にします。

材料工学エリア(有機、無機、物理化学・高分子)

X線を利用した分子構造の解析 有機化学実験の様子

材料工学分野は分子レベルで工業製品の基盤になる材料を研究します。例えばこれまでにない優れた特性を持つ次世代インテリジェントテキスタイルを創成するため高分子の精密な高次構造解析や、織布の風合い測定等により、安全で快適な着心地を有し、かつ高精度計測・身体情報提示が可能なウェアラブルシステムへ応用の開発を行っています。また、「さまざまな金属イオンを明確に識別できる分子の設計および合成」について研究を行い、生体にとって非常に重要な金属である亜鉛イオン、環境中に存在する毒性の高い重金属であるカドミウムイオンや水銀イオンをそれぞれ特異的に見分けることができる蛍光センサー分子の開発に挑戦しています。さらに材料化学の知恵を利用し、低分子から高分子までに至る様々な機能性有機材料を創製します。特に、しなやかで柔らかい材料として期待されるゲル材料の設計・合成を行い、役に立つソフトマテリアルを提案していきます。

人間情報分野

環境デザイン分野

アドミッション・ポリシー

次世代のリーダーとして奈良女子大学工学部が求める学生像

1 人の生活を豊かにする方法に興味を持ち、現代的技術を使って実現したいと望む人

2 科学技術の分野に興味があり、その分野で社会に役立つ仕事をしたいと望む人

3 芸術、文化、歴史、社会等の広い範囲に興味があり、そのことに科学技術を使ってみたい人

4 主体的に学び、考え、実行し、反省することができる人

5 創意、発見する知の探究マインドを持っている人

6 そのための基礎学力と学習習慣を身につけている人

CURRICULUMカリキュラム概要

自由に分野や学年を横断し科目選択することで、
自分だけのキャリアをつくることができます。

イノベーションの基礎となるリベラルアーツ

工学を学ぶために必要な自然科学系の基礎科目に、
アート系科目や人文・社会科学系科目も加え、
自ら課題を発見し、独創的な“ モノづくり” と“ 価値づくり” が行える人材を育成します。

芸術(造形デザイン)科目

自分の興味や感性を活かして、新しいものやサービスを生み出す創造力を、理論と演習の両面から学びます。 造形基礎演習 Ⅰ・Ⅱ 創造とデザインの理論 エンジニアリングビジネス概論

キャリア形成基礎科目

キャリア形成に必要な個性の把握と、その上に立った未来像の設定、それを社会で実現する方法を学びます。 自己プロデュース Ⅰ・Ⅱ 技術者倫理 起業論 情報ビジネス

情報・工学基礎科目

情報学やプログラミング・電子制御などや電気・機械など、工学の学問・研究に必要な基礎学力を幅広く養います。 情報学概論 プログラミング基礎 電子工学 機械工学概論

理科・数学基礎科目

高校数学 Ⅲや高校物理など、未履修者を対象とした科目を設定し、オンラインなどを活用し丁寧な指導を行います。 微分積分 線形代数 確率・統計 物理基礎 化学基礎

歴史・文化教養科目

課題発見に必要な批判的思考や、創造の基盤になる歴史・文化を学び、工学を再構築する思考力を養います。 批判的思 Ⅰ・Ⅱ 技術と理念の日本美術史 歴史文化工学

ピックアップ科目

自己プロデュース Ⅰ・Ⅱ

人生を主体的に生き、キャリア形成を確固たるものにするには、自己の強みと弱み、興味と関心などの個性を把握して、その上に立つ適切な未来像を描く必要があります。本科目では、学生1人1人が自分だけの未来像を確立して、それを段階的に実現していく方法を学びます。

起業論

自分なりの個性と感性から発見したビジネス・チャンスや創造的な製品・サービスは、既成の組織では実現できない場合があります。そうした際に起業することも選択肢にできる人になるために、ロールモデルとなる女性起業家の講義等を参考にしてビジネス・プランを作成し、必要なことを学びます。

批判的思考 Ⅰ・Ⅱ

和を重んじる日本人が苦手とする能力の一つがクリティカル・シンキング(批判的思考)です。本科目では、異分野の正しい学識に立った上で工学を批判する演習を通じて、異なる立場から正しく批判する力、異分野の理解から生じる興味の多様性、現代工学の限界と発展の可能性を学びます。

新分野を開拓する専門教育

生体医工学エリア

生体医工学に関する系統的な知識、計測・研究方法、高度な応用能力を身につける科目を中心に履修します。そして、医療・健康・福祉などの分野で活躍できるエンジニアを目指します。

応用科目 生体医工学演習 生体機能学 ヘルスプロモーション ヒューマンキネティクス

基礎科目 認知神経科学 生体計測基礎実習 生体力学 医工学概論

ピックアップ科目

生体医工学演習

病院や福祉施設などで使用されている画像診断機器、治療機器、福祉機器の計測原理を理解し、複数の装置を実際に操作・使用することで、機器操作スキル・データ解析・統計的処理などの能力を身につけます。

医工学概論

医学・医療の原点を理解するとともに、生体の働き・特性を理解した上で、医工学の基礎となる方法論、生体計測や生体イメージング法など工学的理解が必要とされる様々な医工学機器の知識を身につけます。

情報エリア

データ処理に必要な数理系の科目と、実世界とのインタラクションに関する科目を中心に履修します。対象からデータを収集する機器を自ら創り出すとともに、収集したデータの処理・分析もこなし、新たなシステム開発を行える力を身につけます。

応用科目 五感情報設演習 関係データ分析 ヒューマンインターフェース演習 コミュニケーション工学

基礎科目 最適化 メディア工学演習 センサ工学 パターン認識

ピックアップ科目

生活支援と福祉工学

高齢者や障がい者の生活を支援する技術を開発・研究するために、その対象の基本的な特性や課題を理解し、移動や食事、会話といった生活支援の技術を学び、安全性や信頼性を考慮したスキルと能力を身につけます。

センサ工学

生体や環境の情報を正しく計測できるようになることを目標に、力や熱、光などを数値化・可視化するセンサの構造や仕組みと、センサが取得した情報を適切に処理する信号処理の手法を学びます。

人間環境エリア

都市・建築の環境を理解する知識と計測する技術を学ぶ建築環境系科目と、それらをデザインする技術と芸術性について学ぶデザイン系科目を中心に履修します。室内環境、素材、情報技術などから都市・建築環境を改善するデザインや製品を提案する力を身につけます。

応用科目 建築都市発展演習 Ⅰ・Ⅱ プロダクトデザイン演習 プロジェクト・デザイン演習 河川・海岸工学 芸術文化発展演習

基礎科目 建築環境工学 環境・防災科学 プロジェクト・マネジメント 都市・建築デザイン学 エンジニアリングビジネス演習

ピックアップ科目

建築環境工学

建物内部の音、光、熱、空気について科学的に学び、安全で安心な環境をつくり、生活を快適なものにする知識や技術を学びます。また、省エネルギーやライフサイクルエネルギーなどの基礎事項も学修し、生活空間の性能について考える基礎的能力を身につけます。

都市・建築デザイン学

都市・建築は、各種の空間デザインと、交通や情報を含むネットワーク機能で構成された環境です。こうした都市・建築の近代以降のデザインの思想と潮流について学び、これからの情報化がもたらす新しい都市・建築を考える教養を身につけます。

材料工学エリア

工業製品の基盤となる材料を分子レベルで研究するために、数学や理科、物理の基礎を学ぶ科目から素材に関することを専門的に学ぶ科目を中心に履修します。その後、卒業研究を通して製造業や公的研究機関で研究開発に従事するためのスキルを身につけます。

応用科目 高分子材料学 機能性高分子材化学 機能性有機材料化学 有機工業化学

基礎科目 高分子構造 無機化学 機器分析化学 物性工学 応用物理化学実験 有機・無機化学実験

ピックアップ科目

応用物理化学実験

有機材料の合成・評価により、物理化学の応用展開を実験で行います。有機材料として導電性高分子および高分子ゲルを扱い、最新分析機器による物性評価により、他の講義で学んだ化学の理解もさらに進めて深めます。

高分子材料学

動物、植物などの生体組織や繊維、プラスチック、ゴム、樹脂等は高分子により構成されています。高分子の性質は構造に大きく依存するため、高分子材料の特徴を学び、高分子繊維材料を中心に高分子材料の構造と物性との関連について学びます。

新分野の開拓や価値創造を育むPBL創造的課題解決演習

心と身体を働かせて、ユーザーや地域社会の課題を見つけ、
分野横断的に解決へ向けて実践的に探求する社会・工学系の演習です。
複数分野の教員が指導を合同で担当します。

必修価値創造体験演習

新しい価値をもった作品を制作することにフォーカスし、専門科目の学びを活かしてエンジニアリング・イノベーターとして思考・行動することの体験的基盤をつくることを目的とします。たとえば、エンジニアリングを用いた面白い制作物をチームで企画して制作し、学園祭で展示して来校者の評価を受けることで、自分たちのアイディアに対する社会的評価を体験します。

必修エンジニアリング演習

技術がどのようにして私たちと社会を結ぶのかを体験し、その後の専門科目の知識や技術と私たちとの繋がり方や、技術の目的を学びます。たとえば、簡単なプログラムで作動するセンサを内蔵したシステムを制作して、センサで受信する情報を、制作チームで決めた目的に合わせて処理して作動させることに取り組みます。

選択必修ユーザー指向開発演習

技術中心の開発姿勢でなく、使用する側の考えや生活習慣、趣味判断等を考慮して、ユーザー側から「何をつくるべきか」を探究する方法を学びます。たとえば、高齢者などの特定ユーザーを設定し、そのユーザーの心理や身体情報をもとに、必要なエンジニアリングを考案します。また、不特定のユーザーへのヒアリングやアンケートを通じて、そこにある潜在的需要の把握、ユーザーの分類やユーザーモデルの設定を行い、それに対処するエンジニアリングを考える過程を体験学修します。

選択必修コンセプチュアルデザイン演習

エンジニアリングの活用場面において、全体を一貫した考え方で統一的に行う方法を学ぶことで、将来、エンジニア・イノベーターとして企画を担当する力や、プロジェクト・リーダーとして一貫性をもって事業を遂行する力を育てます。たとえば、メディアを利用した広報活動の計画や課題解決のために工学知識を用いた具体的な解決方法の提案など、コンセプトの立案からプロトタイプの制作までを体験学修します。

選択必修社会改善起業演習

後進国や被災地などの限られた資源状況の中で、最適解のエンジニアリングを考えることにフォーカスする演習です。具体的な内容は、チームごとに対象とする地域を選び、その地域の現状と問題を調査・分析し、エンジニアリングによって解決できる課題を定め、現実に利用できる資源と技術を調査した上で、課題を解決する方法を考案します。さらに、その方法がビジネス的に成立する事業計画を立案するところまでを行います。

TEACHERS教員紹介

教授 久保 博子

人間工学/建築環境工学

教授 黒子 弘道

高分子構造
固体核磁気共鳴法

教授 駒谷 昇一

教育工学/ソフトウェア工学

教授 才脇 直樹

ヒューマンインタフェース
人間情報学/音楽情報処理

教授 芝 学

生理学/運動学

教授 長谷 圭城

造形美術/造形教育

教授 藤田 盟児

建築芸術学/都市・建築史
保存再生

教授 三方 裕司

生物無機化学/生物有機化学

教授 吉田 哲也

機械学習
データサイエンス

准教授 大背戸 豊

有機機能材料/高分子材料

准教授 佐藤 克成

システム情報学/触感情報学

准教授 中田 大貴

認知神経科学

准教授 長田 直之

建築設計

講師 安在 絵美

人間情報学/福祉工学

助教 大高 千明

生体力学

特任准教授 川口 慎二

微分積分/線形代数
確率・統計

客員教授 秋山 咲恵

起業論

客員教授 石黒 浩

知能ロボット
ヒューマンインターフェース演習

客員教授 国本 利文

技術史

INTERVIEW特別座談会企画

1 女性が創る新しい工学

  • 中室 牧子慶應義塾大学 総合政策学部 教授
  • 今岡 春樹奈良女子大学 学長
  • 秋山 咲恵(株)サキコーポレーションファウンダー
    奈良女子大学 客員教授
インタビューを読む

2 宇宙×ロボット×芸術

  • 才脇 直樹奈良女子大学
    研究院工学系教授・副学長
  • 中須賀 真一東京大学
    大学院工学系研究科 教授
  • 国本 利文ヤマハ株式会社
    研究開発統括部フェロー
  • 石黒 浩大阪大学
    大学院基礎工学研究科 教授
インタビューを読む

CAMPUSキャンパス紹介

  • 記念館 明治42年に前身の奈良女子高等師範学校の本館として竣工し、奈良女子大学となった後も大学本部と講堂として使用されていましたが、平成2年「記念館」と名称を改め、保存することとなりました。平成6年に守衛室(附正門)とともに国の重要文化財に指定され、現在も展示室や講堂として活用しています。
  • 総合
    研究棟
    工学部の教育研究拠点です。工作機械を活用してPBL型ものづくりを実践する工作室や生体医工学・情報学・環境工学・材料工学の専門教育のための実験実習室を整備するほか、多様な教員と学生、学外の先生方が交流できるアクティブラーニング室、学生ラウンジ兼図書室を整備します。
  • 学食 学生満足度日本一の生協食堂です。(全国大学生活協同組合連合会2019年10月実施より)和洋中と豊富なメニューが揃っており、晴れた日には屋外に設置されたテラス席で食事をとることもできます。愛称はKotoKoto Kitchen。古都奈良と煮物の煮える音をイメージして名付けられました。
  • 学術情報
    センター
    図書・雑誌等の各種資料のほか、ネットワーク環境を提供し、教育研究活動の支援を行っています。パソコンや電子黒板、プロジェクター等を活用し、活発に議論を行いながら学びを深めるアクティブ・ラーニングが行えるラーニング・コモンズ、グループ学習室も併設されています。
電車でのアクセス
近鉄奈良駅西改札1番出口より徒歩6分 JR奈良駅より徒歩15分
バスでのアクセス
JR 奈良駅より市内循環バス 奈良交通バス「近鉄奈良駅前」下車、徒歩7分
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沿革

1908年 3月 奈良女子高等師範学校が設置

1909年 5月 授業を開始

1949年 5月 奈良女子大学が発足(文学部と理家政学部の2学部)

1953年 8月 理家政学部が理学部と家政学部に分かれ、文学部、理学部、家政学部の3学部に

1993年 10月 家政学部を生活環境学部に改組

1997年 4月 国立大学初の女性学長誕生(奈良女子大学OG)

2009年 5月 創立100周年

2016年 4月 お茶の水女子大学と生活工学共同専攻を設置

2022年 4月 新たに工学部 開設

研究・教育連携企業

INTERVIEW 1 女性が創る新しい工学

  • 中室 牧子慶應義塾大学総合政策学部 教授
  • 今岡 春樹奈良女子大学 学長
  • 秋山 咲恵(株)サキコーポレーションファウンダー
    奈良女子大学 客員教授

工学とは何か?「モノに触れ、モノをつくり、世界を変える」を学ぼう。

今岡 理学とは、自然の不思議を解明しわかろうとすることです。それに対して工学は、何かに触れて、何かを作って、自分がつくる何かで世の中を変えよう、というものです。

秋山 私は、工学部卒のエンジニアと組んで、会社をゼロからスタートし、携帯電話やPCなど電子機器を作る工場で使う検査ロボットを開発し、世界50カ国以上に輸出するヒット商品を生み出しました。成功したきっかけは、世界最先端のモノづくりに挑戦していたお客さまが困っていた問題を解決する新しい技術を、試作ロボットとして工場に提供したことです。現場にエンジニアが入り込んで、お客さまと日々会話しながら改良を加えた結果、性能が磨かれ、お客さまの使いやすさも実現でき、さらなる新しい技術の開発にもつながりました。 よく、お客さまや社会のニーズが大切といいます。でも、本当に求められているものを最初から言葉で表現できる人はいません。だからこそモノを作り「形にする」ことが必要なのです。 形にしてみる、実際に手で触れてみる、動かしてその結果を見てみる、そして考えてみる。そうやって様々な人が同じ視点で議論ができ、初めて「これはいい」と理解が進むことで完成品に仕上がっていきます。新しい価値を創造するとは、社会に潜んでいるニーズに答えるために、コミュニケーションしていくこのプロセスがまさに欠かせません。知恵を集めてモノを創造する、まさに工学の意味にマッチすることだと思います。

なぜ、女子大学に工学部を設置するのか。女性が本当の自分を見つけて、伸ばす。

今岡 今回、奈良女子大学に女子大学として日本初の工学部を設置する予定です。まだまだ日本は女性の工学系人材が少ないのが現状です。女子大学に工学部を設置する意義をもっと理解してほしいと考えています。

中室 もし今私が18歳だったら、工学部を選ぶと思います。人工知能や機械学習の方法とデータを用いて、予測をすることは、これからの意思決定のスタンダードになるはずです。こうした背景を踏まえれば、工学部に対する需要はますます高まっていくと思うからです。 ただ、工学部は男女共学の他の大学にもあります。あえて、女子大学の工学部を選択する意味があるかということが重要です。実は、近年、経済学の分野で、男女別学のほうが女性は高いパフォーマンスを発揮できるということを示した研究が出てきています。ある研究では、経済学の授業を受講する学生を、男性、女性、男女混合クラスにランダムに分けて授業をしてみたところ、1年後にもっとも成績が良かったのは、女性のみのクラスに割り当てられた学生たちでした。これ以外にも、女性は同性だけのグループでは正直に卒業後に希望する年収額や、労働時間、出張などの回数などに加えて、自分自身の向上心やリーダーシップについて回答したのに、異性と一緒のグループになるとそれらを低く回答したということを示した研究もあります。こうした過去の研究を踏まえると、私には、女子大学という環境にはアドバンテージがあるように思えます。大学時代を、自分が何に向いているのか、やりたいことは何か、どういう人生を送りたいのかということを、自分の軸で十分に考える機会にしてほしいと思います。

早期に専門特化させないカリキュラムの意味は?
他分野との融合と試行錯誤がイノベーションの鍵である。

今岡 この工学部の学びで重視しているのは、早い時期から専門に特化するのではなく、教養を広めながら専門性への意識を高めるカリキュラムです。そのために在学中ずっと、いろいろな分野の先生方や学生同士が関わって育っていく仕組みを考えました。また、すぐ近くにあるけいはんな学研都市の研究所や世界最先端の技術を有する企業、また奈良だからこそある国立の博物館や文化財研究所、そういう外部の方々とのドキドキするような本物の研究者との関わりを通して、様々な学びを深めていけるようにカリキュラムを設計しています。

中室 経済学の研究にも、大学における専攻の決定時期が就職後の賃金や転職に与える効果を分析したものがあります。今岡学長のおっしゃるとおり、最初の数年間で幅広く様々なことを学び、自分の「マッチクオリティ」(適性や相性の良さ)を知るほうが望ましいという考え方もある一方で、入学時点で専門が決まっていれば4年間で専門分野の知識や技術を深められるというメリットもあります。どちらが有利になるかを検証しようとしたのです。 イギリスのデータを用いた有名な研究は、入学と同時に専攻を決定した学生のほうが、専攻と無関係の職業に就き、転職する確率が高く、そのせいで賃金が低くなっていることを明らかにしています。つまり、彼らは大学を卒業した後に、自分の専攻を誤ったことを修正するコストを支払ったということになります。これ以外にも、マッチクオリティは初期の賃金に与える影響は小さいものの、長期的な賃金の伸び率に影響することを示した論文もあります。 そもそも18歳の時点で、自分のマッチクオリティを完璧に把握しているという人は少ないのではないでしょうか。教養を広めながら専門性への意識を高めるカリキュラムは、自分のマッチクオリティを知る重要な過程だと思います。効率的に専門に特化するのではなく、専門特化を遅らせたり、他分野と融合するような「意図的な非効率」こそがイノベーションを起こす人材育成に欠かせないのではないでしょうか。

技術を社会に実装させるには?相手に共感して言葉を手渡す視点が大切。

秋山 技術は、社会で実際に使えるようになって初めて役立つものになります。一方で、実用化されずに埋もれたままになっている技術がたくさんあるのも事実です。これは、専門的な視点から専門用語でしか語られないために、その技術を本当に必要としている人たちに伝わっていない、ということが背景にあります。エンジニアが設計したこれまでにないモノや革新的なアイデアを人に伝えようとする時に必要なのは、相手の現実に引き寄せて会話し、共感を得られるようにわかりやすく概念を翻訳し、解説することです。それができて初めて相手から「おお!」と笑顔が溢れてきます。 これができるようになるには、工学に限らず、幅広い分野を学ぶことに大きな価値があります。広い分野の一定程度の知見がある人が育っていくというのは、新しいモノや技術が社会に実装されるプロセスにおいて欠かせないものになると思います。例えて言えば、科学コミュニケーターとか技術コミュニケーターというものかもしれませんが、女性が得意とする役回りのように思います。

自分らしく学べる環境をつくっていこう。女性が活躍できる社会をつくっていこう。

今岡 女性の活躍がますます期待されています。本学の工学部で「主体性と理解力」「専門性と問題解決力」「社会性と波及力」を身につけた出身者が社会に出て活躍することを夢見ています。

中室 近年の経済学の研究では、男女の「競争心」の格差を指摘するものがあります。最近の有名な研究は、小学生の徒競走で、男子のスピードは競争相手がいるときの方が速くなるのに対し、女子は一人で走ったときの方が速くなることを示しています。つまり、女性は、誰かと競い合う環境では十分なパフォーマンスを発揮できないため、受験や就職活動、昇進試験、選挙などで消極的な選択をしがちです。これが政治家や企業の管理職で女性が少ない一因と考えられています。 残念ながら今の社会はまだまだ男性仕様で、女性のパフォーマンスやモチベーションを高める仕組みになっていません。女性が自然にモチベーションを高めてパフォーマンスを発揮できるあり方を模索してほしいと思います。ぜひそうしたことも、女子大学から発信していってほしいと思います。

秋山 私が社会人になったのは1987年、今から30年以上前のこと、この年に男女雇用機会均等法が施行されました。今の若い世代に話すと驚かれますが、この法律以前の就職活動は、男女別々に実施されていました。この法律ができてからも、「女性なのに」と言われ続けながらも、私たちパイオニア世代は、それぞれ飛び込んだ世界で生き抜いてきました。私の経験からは、自分が活躍できる場所を積極的に探そうとしたり、諦めずに挑戦を続けた人が、結果的にキャリアを積み上げていったように思います。保護者のみなさんや、高校の先生は、ご自身の経験などに基づいて、みなさんの将来にアドバイスされると思いますが、よりリスクの少ないように思われる道を薦めるかもしれません。しかし、これからの時代は私たちの時代以上に社会の変化が大きくなっていきます。むしろ新しいことに挑戦する人、試行錯誤できる人が生き残っていく、そういう人たちが結果的に時代の波を乗りこなしていくという現実が待っているのではないでしょうか。

今岡 本日はとても有意義な時間になりました。工学部の卒業生が社会のリーダーとなって活躍する姿を想像することができましたので、大変、力強く感じています。奈良女子大学の工学部に対しては、多くの企業から期待の声をいただいています。今後、企業や研究所などいろいろな機関と連携して、少しでも社会を良くするために、本学の工学部を大きく成長させていきたいと考えています。ありがとうございました。

プロフィール

秋山 咲恵 Akiyama, Sakie

株式会社 サキコーポレーションファウンダー
奈良女子大学 社会連携センター 客員教授(2022年4月工学部客員教授就任予定)

1987年京都大学法学部卒業。
現:アンダーセンコンサルティングに入社し、経営コンサルタントとして活躍。1994年に株式会社サキコーポレーションを技術開発の研究者であったパートナーとともに起業。携帯電話やノートパソコンなど電子機器のプリント基板検査ロボットのメーカーとして世界市場で高いシェアを獲得することに成功し、製造業では数少ない女性創業経営者として注目を集める。2018年社長退任後は、25年にわたる経営者としの経験を活かして、ソニー株式会社、オリックス株式会社、日本郵政株式会社、三菱商事株式会社の社外取締役に就任。内閣府国家戦略特区諮問会議委員、JETRO 運営審議会委員、財務省政策評価懇談会委員、経済産業省産業構造審議会委員など公職多数。

中室 牧子 Nakamuro, Makiko

慶應義塾大学総合政策学部 教授

1998年慶應義塾大学卒業後、米ニューヨーク市のコロンビア大学で学ぶ(MPA,Ph,D,)。専門は、経済学の理論や手法を用いて教育を分析する「教育経済学」。日本銀行や世界銀行での実務経験がある。2013年から現職。産業構造審議会委員、革新的事業活動評価委員会(規制のサンドボックス)委員、厚生労働省統計改革ビジョン2019有識者懇談会委員など公職多数。著書『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は発行部数累計30万部のベストセラーに。

今岡 春樹 Imaoka, Haruki

奈良女子大学第11代学長(2013年4月〜現在)

INTERVIEW 2 宇宙×ロボット×芸術

  • 才脇 直樹奈良女子大学
    研究院工学系教授・副学長
  • 中須賀 真一東京大学
    大学院工学系研究科 教授
  • 国本 利文ヤマハ株式会社
    研究開発統括部フェロー
  • 石黒 浩大阪大学
    大学院基礎工学研究科 教授

変わりゆく宇宙研究とロボット工学。ものづくりが世界を拓く自由をもたらす。

才脇 今の女子高校生が学びたい工学分野を調査したところ、宇宙やロボット、関連する情報処理、そして芸術工学が上位にありました。宇宙工学が上位にあることについてどのように思われますか。

中須賀 私が研究してきた宇宙工学のなかで、「現場でモノが動く」という楽しさや嬉しさを感じたくて、新たに始めた分野が〈超小型衛星〉です。それまでJAXAなどの開発した衛星の重量は数トンという巨大なものでしたが、私が最初に手掛けたのは重量1sの超小型衛星でした。秋葉原で部品を買って作ったもので、開発費は約250万円、当時の衛星開発費の1万分の1です。小さな衛星を自分たちで製作できるようになったことは、私たちに新しい宇宙開発を展開できるという自由をもたらしたのです。 超小型衛星の開発からスタートした研究は、その後徐々に広がり、深宇宙にいくような衛星や、月の裏側に行く衛星、科学衛星や通信衛星、地球の写真を撮れるような観測衛星など、さまざまな衛星の製作につながりました。そして、衛星をただ製作するだけでなく「どのように利用していくのか」を考える機会ももたらしました。この「利活用」という観点で、これまでに宇宙利用されていない、さまざまな分野の知見を得るために、多方面の分野の方とコラボレーションしているところです。工学が、ものづくりによってその利用も含めた新しい世界が開かれることを示すよい例だと思います。ぜひ奈良女子大学との関わりによって新しい何かが生まれることを期待しています。

石黒 私が研究しているロボットは、かつては機械工学や制御工学などの工学部的な分野の一つでした。しかし研究や産業が進むにつれて、段々と日常の生活の場でも使われる対象になってきました。また、産業ロボットでは、2000年ぐらいに、人と日常生活の場で関わるロボットを製作していこうという「ヒューマンロボットインタラクション」研究が始まりました。新たな研究分野が出てきたことにより、非常に幅広い分野の人と、連携していく必要がでてきています。例えば「ロボットとは何か」を考える哲学とか、認知科学や脳科学とも連携するのです。また一方で、日常生活の中では何が起こっていて、どのような場面にロボットが使えるのかを幅広く一般の方とも情報交換しながら研究を進めるようにもなっています。今のロボット研究は、多様な人を巻き込みながら進めていく必要性が出てきています。

工学の可能性と女性の活躍。新たな研究分野は日々増えている。

才脇 工学の世界は、男性の世界のように受けとめられる傾向があります。しかし、これからの工学を考えるうえで、女性の活躍は必要不可欠だと言われています。

石黒 おっしゃるとおりです。特に女性の研究者の活躍はとても重要です。「ヒューマンロボットインタラクション」では、最初の国際会議のボードメンバーは10人中7〜8人は女性でした。MIT(マサチューセッツ工科大学)やCMU(カーネギーメロン大学)などの人たちで、こうした女性の方の主導で、国際的な会議が進められていたと記憶しています。見逃せないのは、20年以上も前から、新しいロボット研究の分野を女性の研究者が主導していたという事実です。残念ながら日本は未だこのような状況にありません。さまざまな理由があるのだと思いますが、日本ではこのような体験を女性が得る機会がありません。ヨーロッパでも、新しいロボット分野で大事なポストについている方の中に、多くの女性がいます。産業ロボットの分野ではまだ少ないですが、日常生活のロボットの分野では、男性だけでなく、日常生活を肌身で感じる女性が活躍するのは普通のことなのかもしれません。女性研究者の活躍が乏しい日本ですが、これからは女性が働きやすく研究しやすい環境を作る必要があると思います。

国本 ヤマハ株式会社での女性の活躍を考えてみると、私が入社した頃は、女性の入社は工学分野ではマーケティング系に限られ、技術者ではほとんどいませんでした。しかし、この30年間でコンスタントに女性が増えてきて、活躍の場も増えてきています。それは必然性があるからでしょう。ヤマハ株式会社で活躍している女性たちは、マーケティング系に次いで、コンテンツ開発や感性音響工学的な分野が多いと思います。女性のもっているセンスや志向性といったものが音楽との相性がよいので、音楽と音響というところで女性工学者に対する需要が年々増えてきています。 楽器に限らず、日本の消費行動は20世紀から21世紀に大きく変わりました。特に第二次世界大戦後の高度成長期には、どのようなものを作っても新しいものなら売れるという時代が続いていました。それが21世紀に入ると大きく転換しました。お客様に評価されて喜んでもらえるような商品しか売れない時代に入ってきて、商品もどんどん淘汰されていったのです。例えば、家庭で使いやすいとか、楽器も弾いていて本当に満足感があるとか、音響も音がよいだけではなくて小さいとか、電池で動くとか、求められることが増えて、技術開発も研ぎ澄まされて難しくなってきています。バッテリーも、リチウムイオン電池の扱いなど非常に難易度が高い。そのため研究者は、工学系でも大きな範囲をカバーする必要があります。感性を研ぎ澄ますことが重要になってきました。 そのような状況のなかで、女性が活躍するチャンスが増えてきているのだと思います。音楽や音というものは、人間が生きていくためには必要なものです。人間は生命を維持しているだけではなく、エンターテイメントや情報なども人間にとっては大事です。だから音楽や楽器が必要で、これらがないことは人間にとって苦痛です。これからの時代、楽器のあり方もさらに変質し、カバーする範囲が広がっていくのではないかと思っています。

石黒 ロボットについても同じことが言えると思います。産業ロボットなど特殊な環境の中で働くロボットのほかに、日常生活で活躍するロボットの研究の幅が広がってきています。かつてロボットはロボットの世界だけで働ければよいという考え方が主流でしたが、現在はロボットがサービスを提供する相手は人間や、人間の生活になろうとしてきています。このような状況になると、家庭の中でどのようにロボットを使えばよいのかをきちんと考えていくことが重要になってきます。この考え方が、そのまま研究になるという時代になってきたのです。  それがロボットの研究を、本当に世界に通用するような研究に押し上げていく力になるのではないでしょうか。他にも、スマホで使うアプリなどのツールを作る分野でも、女性が増えてきています。日常生活に直接的な影響を与えるようになって、さまざまな知恵が必要になってきています。

宇宙×ロボット×音楽の研究の可能性。国際宇宙ステーションにロボットを。

才脇 奈良女子大学の工学部では、さまざまな分野が意見を出し合って、新しいことにチャレンジできる仕組みをつくりたいと考えています。例えば、宇宙とロボットと音楽の分野を連携させた研究の可能性はあるでしょうか。

石黒 以前、「ロボノーツ」というNASAの研究プロジェクトと交流しました。ロボノーツとは、国際宇宙ステーションに宇宙飛行士を送るより、ロボットを送るほうが船外活動などの負担が少ないので、遠隔操作型ロボットを置いて、宇宙飛行士と連携して働かせるという構想でした。最初に開発されたロボノーツは、顔は鉄の仮面を被った悪魔のロボットのようなひどいデザインでした。しかし、「宇宙飛行士と一緒に働くのなら、アンドロイドのような人間のような姿がよい」というので、最終的にはアンドロイドのような顔で作りました。近い将来、宇宙も「生活の場」になっていきます。そうなると、どのように人とロボットが関わればよいか、さまざまな実験が必要になります。生活の場は人々が連携しながら問題解決しないといけないので、「環境の中でのロボットは、どのような役割があるのか」を考えることは、楽しい研究課題になるのではないでしょうか。必ずロボノーツのようなプロジェクトは、またすぐに訪れるという気がしています。

中須賀 国際宇宙ステーションは人がいると、莫大な費用がかかります。宇宙飛行士に何か作業を頼もうとすると1時間当たり約100万円の費用がかかります。人がいると水や食糧をはじめ、さまざまなものを運ばなくてはいけないし、何か危険が起こらないように地上でたくさんの人が監視しなくてはいけません。これからは、人とロボットの協調が必要なのです。今も国際宇宙ステーションでの人間の作業の多くは、実は宇宙ステーションで飼っているネズミの世話をすることだと言われていて、このような作業をロボットに変えていくことが必要です。さらに将来的には、国際宇宙ステーションの中でロボット技術を徹底的に鍛えて、将来の惑星上、月周回の宇宙ステーションなどで、少しの人間とその他の多くはロボットがいるような環境になっていくことが、自然な流れだと思います。そうした時に、石黒先生がおっしゃったように、人間的な温かみのあるようなロボットが、人間にとって必要とされます。今後は、地上だけでロボット研究をするのではなく、実際に宇宙空間でロボットを開発するような実験をできるようにしたいものです。こういった研究は、宇宙開発以外の分野のアイデアも入れながら進められるとよいと思っています。それからもう一つ、地上にいる人が宇宙にいることを感じるような体験、「アバター」の研究です。実はANAがスタートしていて我々も組んで研究していますが、宇宙ステーションにアバターを送り込んで地上にいる人は宇宙空間の中にいるような感覚を味わえるのです。これからは、宇宙にいる人がロボットの便益を感じる研究や、地上にいる人がロボットを使って宇宙に行った疑似体験ができる研究など、研究分野は非常に広がっていくと感じています。

宇宙×ロボット×音楽の研究の可能性。宇宙ミュージック、ロボットと音楽のセッション、AI。

才脇音楽や音響の技術についても、宇宙ステーションを対象に研究できるでしょうか。

中須賀 宇宙飛行士が閉鎖環境で長期間を生きていくときに、快適に、そして精神衛生上の健康を維持したままで生きていくためには、音楽はとても大切です。また、音楽との関係で考えると「宇宙ミュージック」というのが、そろそろ出来てきてもよいのではないでしょうか。例えば、宇宙の放射線などをベースに宇宙的な音楽が出来てきて、それを地上の人が楽しむのです。こういったものも、いろいろ試行錯誤的に出てきてもよいでしょう。宇宙で起こる放射線が当たると半導体が0と1とが反転するような現象が起こるのですが、以前、こうした現象を一つの音楽にできないかと試したことがあります。

石黒 私は、渋谷慶一郎さんという音楽家と一緒に「ロボットと音楽のセッション」の活動をして世界中で公演しています。アンドロイドに、オーケストラの指揮者をやらせるのです。アンドロイドは途中で歌いだし、アンドロイドの指揮がランダムに変わっていきますが、それを一生懸命にオーケストラがフォローしていって、人間とアンドロイドが協調します。すると不思議なことに、アンドロイドが人間のように感じられるのです。人間とロボットが音楽でつながると、人間らしさや人間の生命感というものが、ロボットに乗り移るような感覚がします。音楽は、無機質なものと人間との間をつなぐ、共通言語のような役割があるのかもしれません。そこにロボットが入ってくると、もっと音楽の可能性は広がり、新しい楽器の開発や、新しいオペラやオーケストラの方法などに発展していく気がします。

国本 音楽・音響開発の現場では、AIを用いて音声合成や信号合成を使う研究や、スヴャトスラフ・リヒテルさんというピアニストの演奏を再現する研究が進んでいます。宇宙と音楽や音響という視点で考えると、また新しい取り組みができるのではないかと期待してしまいますね。

科学と芸術と技術は接している。芸術家への理解なしには開発はできない。

才脇 研究と芸術との関わりについて、お話しいただけませんでしょうか。

国本 30年以上会社で楽器を作った立場から言うとすると、あまり芸術と技術の間に線を引かないことが重要だという気がしています。芸術と技術を融合させたものとして楽器があるからです。私自身、自分で楽器を弾くこともありまして、もちろん下手なのですが、仕事柄、プロの演奏家とお会いして話すことがあります。チック・コリアさんや坂本龍一さんなど、いろいろな方と話をすることがありました。その時に、そこで線を引いて「私は技術を担当します、芸術はそちらにおまかせします」としていてはダメなのですね。芸術家が向いている方向性や創造物の理解なしには、楽器や音響をよくすることはできません。拙いながらも理解しようとする努力は、よい製品の開発に結びついてきたと思っています。

石黒 ロボットは、理屈だけで作れません。全ての製品が完璧に設計されるには、人間についての完璧な知識が必要になるわけですが、人間の機能を再現しようとするにはまだわからないことも多いので、芸術的なセンスや直感で補う必要があります。その意味で、科学や技術と芸術は、常に接点を持ち続けていかないといけません。国本先生がおっしゃるように、音楽には芸術的な要素が強いですが、一方で技術がないと新しい楽器は作れません。芸術と技術は分離しているものではなくて、常に一体なのです。新しいものを作っていくうえでは、芸術と技術が必ず必要です。私の研究の役割は、芸術的な直感で作った新しいものから普遍的な人間の特徴や性質とか、ロボットの性質を見定めていって、それを技術にしていく、そのような作業をしているような気がします。研究で多くの分野と連携をしていますが、私たち研究者や技術者が知らないようなおもしろい直感で何かを作られることがあります。「すごくいい」と思うところには必ず理屈があるわけで、その理屈を私たちが技術や理論を見つけにいくというコラボレーションができるとよいなと期待しています。

幅広い一般教養が大切。アンテナを張って興味のあることを探してほしい。

才脇 奈良女子大学を目指す高校生に、大学4年間をどのように過ごしてもらいたいと考えていますか。

石黒 工学部は、専門科目を2年生や1年生でも学ぶようになり、学生は勉強しないといけないことが増えています。そして大学院にはほぼ全員が進学しています。おそらく奈良女子大学でも6年かけて教育を受けることになるのではないでしょうか。そのため4年間の教育課程の中では幅広く学んでほしいです。特に、リベラルアーツにも興味をもって取り組み、ぜひ自分の考え方のベースを作る哲学や芸術などをきちんと勉強してもらいたいです。いろいろな発想を生むためには、リベラルアーツはとても重要です。リベラルアーツはたくさんのおもしろい科目があるので、興味をもって勉強してもらうことは、その後の専門科目につながる大事な学びになってきます。

国本 大学時代を振り返って思うのは、「あの時いろいろな単位を取っておけばよかった」ということです。企業に入社して社会に出ると、幅広く学んでおいたことがとても役に立ったし武器になりました。勉強はパラドックスの連続で、高校時代の勉強も、中学校の数学や小学校で学ぶ算数も、あとで「あの時に算数をしっかりと勉強しておけばよかった」と思うことがあるのではないでしょうか。いろいろと幅広く学んでいただきたいです。

中須賀 大学にはいろいろな授業があるので、自分がどういった分野に行けば一番集中でき、ずっと楽しくやれるのか、アンテナをいっぱい張っておくことが大切でしょう。高校時代にそれができている人はそれに合わせて大学を選んでいると思いますが、大学はそのような興味を見極め、見つけるための場でもあります。また、大学の先生の話を聞くことで、自分がどのような分野にビビッと反応するのかということを見極められます。そしてそれが将来の自分の仕事や、人生の目標になることがあります。最近の学生を見ていると、枠組みが決められた中で与えられた問題を最適に早く解いて処理していくことにはすごく訓練を受けている印象があります。これからは、決められた枠組みをどのように突破していくのか、あるいは枠組み自体をどのように変えていき新たに作っていくかということが大学では重要になってきます。そのためには、好奇心と問題解決力がとても大切。しかも、何としてでも知りたいとか、何としてでも突破したいという強い思いがあるからそこにブレイクスルーが起こるのです。一人ひとりがそれだけ強い思いをもてる分野や対象は何かを、見極めてほしいです。

工学は、人間や世界の幸福を考える学問になる。
人間に寄り添う快適なものを開発する感性が求められている。

才脇 これまで工学に直接関係なかった人のアイデアが違った切り口をもたらすかもしれません。奈良女子大学の工学部はそうしたことも期待しています。これから工学部受験をする女子高校生にエールをお願いします。

石黒 昔は、工学で特にロボットの分野では、設計や制御ができないと研究できないという考えがありました。しかし、今はそんなことはありません。最近の人工知能の研究では、たくさんのツールが誰でも簡単に使えるようになり、そのツールをどのようにどのような場面で使うかという研究が重要になってきています。バックグラウンドが必ずしも機械工学や、コンピュータのプログラミングではなくても、活躍できる場は増えてきています。自分が今まで勉強してきたことや、得意なことから考えて、「私はロボット研究に向いていない」とか、「宇宙研究に向いていない」とか、「音楽の研究に向いていない」とか、そのように考えてほしくないですね。自分の興味に素直になって、バリアを取り払って、積極的に新しいことにチャレンジしてもらいたいです。

中須賀 これまで工学は、より早く、より効率的に、より強い力でなど、ある程度向かうべき方向が見えていて、それに向かって研究してきました。しかしこのような工学は限界がきていて、もう行くところまで行ってしまった。これからの工学は、「人間が幸せになる世界を作るために」とか、「地球上で地球人が長く生きていけるために」という方向に変えていかなくてはいけないのです。つまり工学の目標自体が、大きく変革を要求される時代になってきています。このように目標自体を大きく変革する時には、本当に多くの知見がいります。工学的な問題解決の手法だけではなく、より広い視点で考えられる人材が、今後絶対に必要になってきます。新しい工学部の目標を作ってくれる人たちを大変期待するところです。

国本 間違いなくこの先は、人間が楽しみ、人間に寄り添ってくれるより快適なもの、情動に訴えかけるもの、そういったものがよい製品になっていきます。工学を使って製作する商品、製品といったもののイメージが変わってきているのです。そのような感性のある研究者や、工学者たちは、実は女性には多いという思いがあります。実際、企業の方向も、全体としては女性が活躍する場が増えてきています。ぜひたくさんの人たちのチャレンジを待っています。

プロフィール

石黒 浩 Ishigro, Hiroshi

大阪大学大学院基礎工学研究科 教授
工学博士

1963年生まれ。ATR石黒浩特別研究所客員所長&ATRフェロー。知能ロボットと知覚情報基盤の研究開発を行い、次世代の情報・ロボット基盤の実現をめざす。人間酷似型ロボット研究の第一人者。2007(平成19)年、英Synectics社の「世界の100人の生きている天才」で日本人最高位の26位に選ばれる。2011年に大阪文化賞、2015年に文部科学大臣表彰を受賞。主な著書に『ロボットとは何か』(講談社)、『ロボットは涙を流すか』(PHP研究所)、『人と芸術とアンドロイド』(日本評論社)、『人間とロボットの法則』(日刊工業新聞社)、『枠を壊して自分を生きる。: 自分の頭で考えて動くためのヒント』(三笠書房)など。

国本 利文 Kunimoto, Toshihumi

ヤマハ株式会社 研究開発統括部フェロー
博士(情報学)

1957年生まれ。ヤマハ株式会社研究開発統括部フェロー。北海道大学工学院電気工学科在学中に立東社の「だれにもわかるエフェクター自作&操作術」のライターとして業界デビュー。ヤマハ株式会社に入社し、電子楽器、音響機器、信号処理技術の開発・研究に従事。研究開発センター長、研究開発統括部戦略担当主席技師を経て、現職。最高級エレクトーンの音源LSIをはじめ、世界初の物理モデリングシンセサイザーVL1、販売終了後も国産機に珍しい音の太さに根強い支持があるアナログ・モデリング音源のAN1x、ヤマハの持つあらゆる音源技術が凝縮されたハイブリッド型のEX5、米国で圧倒的な支持を集めたピアノ型鍵盤を持つS80など、専門家やプロミュージシャンから高く評価される商品を次々と世に送り出したデジタル・シンセサイザーのレジェンド。

中須賀 真一 Nakasuka, Shinichi

東京大学大学院工学系研究科 教授
工学博士

1961年生まれ。1983年東京大学工学部卒、1988年東京大学博士課程修了、工学博士取得。 同年、日本アイ・ビー・エム鞄結條礎研究所入社。1990年より東京大学講師、助教授、アメリカ・メリーランド大学およびスタンフォード大学客員研究員を経て2004年より東京大学工学部航空宇宙工学専攻教授。超小型人工衛星の設計・製作・運用、宇宙システムの知能化・自律化、革新的宇宙システム、宇宙機の航法誘導制御等に関する研究・教育に従事。 日本航空宇宙学会、SICE、IAA等会員。IFAC元航空宇宙部会長。2010〜2014年、内閣府FIRSTプログラムによる「ほどよし超小型衛星プロジェクト」のリーダー。2012年から内閣府宇宙政策委員会委員。著書に『宇宙ステーション入門』(東京大学出版)、『CanSat−超小型模擬人工衛星ー』(オーム社)など。

才脇 直樹 Saiwaki, Naoki

奈良女子大学 研究院工学系教授・副学長
博士(工学)

奈良女子大学副学長。同大研究院工学系 教授(工博)、及び、大阪大学大学院基礎工学研究科 石黒研究室 特任教授。大阪大学大学院基礎工学研究科助手、講師を経て、平成14年度文部科学省在外研究員としてロンドン大学脳認知発達研究所及びスタンフォード大学電子音楽音響研究所、ATR知能ロボット研究所客員研究員等を経て現職。大阪科学技術センター「五感センサの産業化委員会」委員、ウェアラブルコンピュータ研究開発機構理事、人間情報学会理事、ヒューマンインタフェース学会評議員、日本繊維消費科学会理事、日本繊維機械学会理事、G20京都会議運営委員、E-Textile国際標準化WG主査等歴任。IEEE LifeTech 2019 Excellent Paper Award、平成22・26・29年度日本学術振興会科研費優秀審査員表彰、第21回ヒューマンインタフェース学会論文賞等を受賞。著書は、感性情報学(工作舎)、メディア用語基本事典(世界思想社)、スマートテキスタイルの開発と応用(CMC出版)、スマートテキスタイルの最新動向(同)など。専門は、人間情報学及びヒューマンインタフェース。